薬剤師以外の人や事務が調剤業務を手伝っていい範囲を法律に基づいて検討する

薬剤師法(昭和35年法律第146号)第19条において、医師、歯科医師又は獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときをのぞき、薬剤師以外の者が、販売又は授与の目的で調剤してはならないことを規定している。

これまでこの「調剤してはならない」の「調剤」の意味が明確に規定されておらず、調剤薬局によって解釈が異なり、「薬剤師以外の人(事務など)が調剤をしている」「これくらい手伝っても問題ない」などの根拠のない憶測が現場や経営層を悩ませてきました。

しかし、平成31年4月2日に厚生労働省より交付された『調剤薬局のあり方について』の中で、この「調剤」という行為についての定義がなされたので、この記事で一度整理することにしました。

*あくまで、いくつかの文書や法律を当編集部の解釈に基づきまとめられたものであり、何かあった場合に当編集部では責任を負い兼ねますので、最終的なご判断は各施設ごとに致しますようお願いします。

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調剤行為のグレーゾーン

大手調剤薬局グループではあまり行われなくなってきましたが、中小規模の薬局では、人件費を抑える目的で薬剤師人数を減らし、薬剤師以外の人や事務に調剤行為を行わせるという悪質な経営実態が明らかになっています。こういった行為は管理薬剤師からの指示ではなく、マネジメントに関わる上層部や傲慢な経営者からの指示で行われることが多い。管理薬剤師が経営者に何も言えない立場であることをいいことに、このように法を犯させようとする経営者が存在しているのです。

また、そういった薬局は、「薬剤師1人当たりの処方箋1日40枚まで」というルールをも故意的に違反していることも多い。

薬剤師以外の人や事務に調剤業務を行わせる行為は、調剤薬局界隈では一般的に「グレーゾーン」というなんとも都合の良い言葉で済まされてきました。週刊文春の不倫疑惑についての直撃取材で雨上がり決死隊の宮迫博之が言った「オフホワイト」という魔法の言葉とは訳が違います。

 

しかし、平成27年6月に厚生労働省医薬食品局総務課は、ファーマライズホールディングスの傘下の調剤薬局が薬剤師による指示で無資格者の事務員に軟膏剤の混合を行わせていたことについて「軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を薬剤師以外が直接計量・混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても薬剤師法第19条への違反に該当する」との判断をしました。

この事件の発覚が、全国の薬局に気持ちの変化をもたらしたのは間違いないと思いますが、それでも保健所に指摘されるまで悪質な行為を続ける薬局が後を絶ちません。

今回の厚生労働省からの通達の解釈を共有して、このような悪質な行為を続ける薬局がなくなっていくことを切に願います。

 

薬剤師以外の人や事務が調剤業務を手伝って問題ない範囲

平成 31年4月2日に厚生労働省医薬・生活衛生局から交付された『調剤薬局のあり方について』に記載されている『薬剤師以外の者に実施させることが可能な業務の基本的な考え方について』の各項目を当編集部なりに解釈したいと思います。

なお、今回の通達で薬剤師以外の人や事務がどの程度まで調剤業務を行なっていいのか全てを解決できたわけではありません。

今回の通達の中に「下記2に示す業務を含む具体的な業務に関しては、薬局における対物業務の効率化に向けた取組の推進に資するために、情報通信技術を活用するものも含め、有識者の意見を聴きつつ更に整理を行い、別途通知することとしている。」と申し添えられていたので、新たに通知が入り次第、こちらのページでも追記したいと思います。

調剤薬局のあり方について

1.   調剤に最終的な責任を有する薬剤師の指示に基づき、以下のいずれも満たす業務を薬剤師以外の者が実施することは、差し支えないこと。なお、この場合であっても、調剤した薬剤の最終的な確認は、当該薬剤師が自ら行う必要があること。

  1. 当該薬剤師の目が現実に届く限度の場所で実施されること
  2. 薬剤師の薬学的知見も踏まえ、処方箋に基づいて調剤した薬剤の品質等に影響がなく、結果として調剤した薬剤を服用する患者に危害の及ぶことがないこと
  3. 当該業務を行う者が、判断を加える余地に乏しい機械的な作業であること

1-3. → 薬学的知識を使わないような単純作業を薬剤師以外の人や事務が行うことができるということ。例えば、錠剤の数量の計算、粉薬の計算、一方化のためにPTPシートから錠剤を取り出す作業など。

半錠にする作業、粉砕ミキサーによる錠剤の粉砕作業や、一包化のセット〜スタートまでも、薬剤師からの指示があれば、薬剤師以外の人や事務が行なっても問題ないと解釈できるが、後日の厚労省の別途通知でさらに細かい説明がなされることを期待したい。

 

2.  具体的には、調剤に最終的な責任を有する薬剤師の指示に基づき、当該薬剤師の目が届く場所で薬剤師以外の者が行う処方箋に記載された医薬品(PTP シ ート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品)の必要量を取り揃える行為、及び当該薬剤師以外の者が薬剤師による監査の前に行う一包化した薬剤の数量の確認行為については、上記1に該当するものであること。

2. → いわゆるお薬のピッキング作業は薬剤師以外の人(事務など)が行なって問題ないということ(1.の条件において)。すでに薬剤師が作成した予製についても同様。

以前までは、「薬剤師の管理下で行われる事務員のピッキングはグレーゾーン」「薬剤師以外の人や事務がピッキングするのは明らかな薬剤師法違反」との声が、各週刊誌や新聞で挙げられていましたが、今回の通達でピッキングに関してはまったく問題ないことが示されました。

また、通達には「薬剤師以外の者が一包化されたお薬に関して数量を確認することができる」とありますが、お薬の商品名について確認できるかどうかは述べられていません。一見、商品を確認するだけなので、機械的な単純作業かと考えられるが、もし薬剤の品質変化などがあった場合、薬剤師以外の人や事務では患者に危害の及ぶことがないかを判断することができないため、この行為は薬剤師が行うものと解釈できます。もちろん、異物混入しているか否かのチェックは薬剤師以外の人や事務でも問題ないと考えれられます。

 

3.  「薬剤師以外の者による調剤行為事案の発生について」(平成27年6月25日付薬食総発 0625 第1号厚生労働省医薬食品局総務課長通知)に基づき、薬剤師以外の者が軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、引き続き、薬剤師法第19 条に違反すること。ただし、このことは、調剤機器を積極的に活用した業務の実施を妨げる趣旨ではない。

3. → 「薬剤師がチェックしたから〜」という屁理屈はもう通りません。薬剤師以外の人や事務が軟膏を計り取る行為はダメ。水剤瓶にシロップの入れる行為もダメ。もちろん予製でもダメ。天秤に散剤を載せる時点でアウトです。

しかし、最近では、レセコンで処方箋内容を入力したら、コンピュータが散剤や水剤を計算し、自動的に分包、分注してくれるようなシステムも登場している。上の通知には、「薬剤師以外の者が軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、・・・」かつ「調剤機器を積極的に活用した業務の実施を妨げる趣旨ではない」となっているので、機械が間接的に行なっている行為に関しては、薬剤師以外の人や事務が計量混合していることに当たらないと考えていいと解釈できます。

 

4.  なお、以下の行為を薬局等における適切な管理体制の下に実施することは、調剤に該当しない行為として取り扱って差し支えないこと。

  1. 納品された医薬品を調剤室内の棚に納める行為
  2. 調剤済みの薬剤を患者のお薬カレンダーや院内の配薬カート等へ入れる行為、電子画像を用いてお薬カレンダーを確認する行為
  3. 薬局において調剤に必要な医薬品の在庫がなく、卸売販売業者等から取り寄せた場合等に、先に服薬指導等を薬剤師が行った上で、患者の居宅等に調剤した薬剤を郵送等する行為

4-1. → 記載の通り。以前、保健所から「薬剤師以外の人や事務が調剤室に入ってはいけない」と言われたこともありましたが、そのような規則はないと同時に言っていますね。

4-2. → これらの行為は間違えると患者の誤飲にもつながるので、もし、薬剤師以外の人や事務がこの行為を行うためにはマニュアルを作成する必要がありそうです。あくまで、適切な管理下の元に実施となるので、最終的には薬剤師のチェック・監査が必要となります。

4-3. → 記載の通り。薬局に商品がなくても服薬指導さえしっかり行えば、薬剤師以外の人や事務がお薬を渡すのはまったく問題ないということ。

 

5.  薬局開設者は、薬局において、上記の考え方を踏まえ薬剤師以外の者に業務を実施させる場合にあっては、保健衛生上支障を生ずるおそれのないよう、組織内統制を確保し法令遵守体制を整備する観点から、当該業務の実施に係る手順書の整備、当該業務を実施する薬剤師以外の者に対する薬事衛生上必要 な研修の実施その他の必要な措置を講じること。

5. → 記載の通り。

 

まとめ

これまでの情報を元にグレーゾーンと言われてきた薬剤師以外の人や事務が行なっていいことと行っていけないことを分けてみました。もちろん薬剤師の管理下においてという条件で。

新たに通達が入り次第、追加及び変更したいと思います。

これは薬剤師以外の人や事務が手伝っても問題ない

  • 錠剤や外用剤などのピッキング
  • (薬剤師が作成した)予製のピッキング
  • 卸から納品したお薬を調剤棚に収める作業
  • 一包化された錠剤の数量のチェック
  • 服薬指導済のお薬のお渡し
  • お薬カレンダーへ調剤済のお薬を分配作業
  • お会計
  • 調剤器具の洗浄  など

 

これを薬剤師以外の人や事務が手伝ったらアウト

  • 軟膏剤、水剤、散剤などの医薬品を直接計量・混合すること
  • 一包化の監査(そもそも非薬剤師は薬学的知識ないので当然できませんが)

 

いまだグレーゾーン

  • 薬歴の作成(入力)

→ パソコン入力が苦手という理由をつけて薬剤師以外の人や事務に薬歴の入力をさせる薬剤師・経営者も存在する。薬剤師がチェックしているから問題ないという問題ではない。

  • 錠剤の半錠化
  • 錠剤の粉砕
  • 一包化のセット〜スタート  など

 

金儲け主義・効率化より薬剤師としての誇りを

このような通達がなくても、薬剤師以外の人や事務に調剤業務を行わせないのは当たり前のことでしょう。しかし現在の調剤薬局業界は、前述したような違法行為を続ける薬局が存在することで、真面目に運営する調剤薬局がバカを見るような構図になっています

本来、そのような違法行為をしなくても薬局運営は十分にやっていけるものですが、お金お金と目にくらんだ経営者が人件費を削減してこのような悪質な行為を行わせています。そもそもそういった経営者はこのような批判を見ても悪質だと思わないほどモラルはなくなっているのが問題です。

医療事務は医療事務本来の職務を全うすべきですが、立場的に雇用主に何も言えない状態にあります。

もし、今回の通達及び具体例の通知が来ても薬局の改善が見られない場合は、保健所などに訴えてみるのもいいかもしれません。

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