小笠原諸島の離島薬剤師

小笠原といえば「南の島」という程度の認識で、実際に日本のどこにあるかよく知らない人も多いかもしれません。

東京からはるか南、戦後アメリカ統治下であった小笠原諸島は1968年に日本へ返還されました。2011年にはユネスコ世界自然遺産に登録され、ますます日本さらには世界から注目されています。

今回は、そんな日本の秘境『小笠原諸島』の魅力や概要、小笠原で働く薬剤師情報をご紹介します。

 

東洋のガラパゴス 『小笠原諸島』の魅力

小笠原諸島ってどんなところ?

父島

 

小笠原諸島は東京から約1,000キロメートル南に位置し、聟島(むこじま)列島、父島列島、母島列島、硫黄列島、沖ノ島島、南鳥島、西ノ島から成り立っています。一般人が居住しているのは、父島(およそ2,000人)と母島(およそ450人)のみです。

小笠原の中心である父島の周辺には兄島や弟島、孫島などまるで一つの家族のような島々が存在しており、昔は100人ほどの住民が暮らしていた兄島は現在は無人島となっています。

小笠原村の人口は戦前のピーク時では7,711人を数えましたが、集団疎開やアメリカ統治の影響から人口は激減。日本への返還後は少しずつ人口が増加し、現在は2,593人(平成28年12月1日現在)です。

毎年、若い世代を中心に移住者が増加し、それに伴い少しづつ人口が増加する傾向にあります。東京都でありながら高齢化率が低いのもここ小笠原村の特徴です。

父島には村の役場のほか、東京都の小笠原支庁がおかれ、警察、小中学校、都立高校などもあります。商店は港を中心にならび、日常の食料品や生活用品に不自由はありません。

 

また、小笠原村の人柄ですが、欧米系と日系の入植者が仲良く暮らしてきた歴史もあってか、島民はオープンな性格の方が多いようです。ここ小笠原村では隣近所同士が常に協力し合い、全員が顔なじみのような関係だといいます。

都会では忘れ去られた近所付き合いが未だに残っているというよりも、それが当たり前として今でも根付いているのです。

 

小笠原諸島の気候に関してですが、気象学的に亜熱帯に属し、年間を通じて気温の変化が少なく、年の平均気温は23℃(年間の最高気温は32℃程度、最低気温は15℃程度)です。東京の本土の夏は35℃を超える暑さから、冬は氷点下になることを考えると、小笠原諸島は大変過ごしやすい気候と言えます。

 

また、小笠原村の不動産状況ですが、田舎なので非常に安価だろうと思われますが、1K(6−8畳)の間取りでおよそ6〜8万円/月と都内とさして変わりません。むしろ割高に感じるほど。

ガソリン代も離島のため輸送費が高く、1Lで200円を超え、その他基本的に物価は高めです。

 

「おやっ小笠原いいことがないぞ??」と思ってきたかもしれません。

 

それでは、小笠原諸島の魅力を少しづつご紹介したいと思います。

早速ですが、「ボニンブルー」という言葉をご存知でしょうか。

「ボニンブルー」とは小笠原の海の色を指す名称です。

ボニンとは無人を意味し、江戸時代には無人(むにん)島であった小笠原が、後に英語の名称で変化してボニンとなった背景があります。

本土からも遠く離れ、今も手つかずの自然の残る小笠原の海は、「汚れの無い独特の美しい青色」が特徴で、沖縄の海の色とも違った色合いを見せています。

私達に強い印象を与える小笠原のボニンブルーの美しい海の景色は、地上から眺めた海だけではなく、海の中も同様に魅力にあふれています。透明度抜群の海中には、サンゴ礁の中を彩り鮮やかな熱帯魚が泳ぎまわり、感動の世界が広がっています。


メインアイランドの父島について簡単にご紹介しましたが、一方で、「日本最後の秘境」とも言われ、亜熱帯特有の密林が生い茂る「母島」の存在も忘れてはいけません。

母島の中央に聳えるのは乳房山(ちぶさやま)。母島に乳房山とは何ともベストマッチングな名前ですが、乳房山は標高463mで険しい山です。母島小中学校の辺りから乳房山への遊歩道が伸びており、ハイキングやバードウォッチングには最適。母島列島にしか生息しないと言われている特別天然記念物で絶滅危惧種の「ハハジマメグロ」に会えるかもしれません。

島には小剣先山展望台やスリバチ展望台などの展望台があり、一面に広がる太平洋を一望できます。天気がいい日は南南西150mほど先にある北硫黄島を眺めることができます。

また、夜中に条件が会えば南十字星も見えることがあります。

 

生物固有種の宝庫「小笠原諸島」

小笠原諸島は、小笠原独自の生物の固有種の多さを評価されたことから、2011年に世界遺産(世界自然遺産)へ登録されました。日本における世界自然遺産としては屋久島、白神山地、知床に次いで4番目です。

この世界自然遺産に登録された理由としては、「海洋生態系や動植物の進化のプロセスを示すような見本であること」というユネスコの審査基準に適合すると判断されたことによります。

では、この小笠原に固有種が多いのはなぜでしょうか。

小笠原諸島は長い歴史で、大陸と陸続きになったことのない島(いわゆる海洋島)であるためと考えられています。

シカやヤギなどの草食動物、海水の苦手なカエル・イモリなどの両生類、クマやオオカミといった肉食動物が小笠原には本来いません。これらの動物のような「捕食者」が小笠原では不在なので、本来であれば食べられてしまう動植物が独自の発達を遂げたと考えられています。

今では一般的に知られている進化論ですが、生物の「進化」を証明するのは至難の業。しかし、小笠原のように他地域から孤立した島の生物を分析することで、その生物がどのように環境に適応してきたかを見ることができます。

すなわち、小笠原諸島は「生物の進化」という大きなテーマを研究する上で、きわめて貴重な土地なのです。これが、小笠原が東洋のガラパゴスといわれる由縁です。

生物学とくに「進化論」に興味がある純理系の薬剤師にとってはまさに天国のような島かもしれませんね。

 

しかし、小笠原諸島が世界遺産に登録されたことで、観光客が増えることに対する島民の意見は賛否両論です。

「観光客が増えてよかった」
「登録されたことで、自然保護の仕組みができた」

と好意的に評価する声がある一方、

「保全対策は不十分だ」
「観光客が増えても自然や自分たちの生活の妨げになる」

と批判する声も出ています。

もし薬剤師として、この小笠原で働くことになるのであれば、島の維持・発展と自然保護を両立させるための活動も担うことになるかもしれません。

 

多彩なダイビングスポットとクジラ

小笠原諸島は観光地としても素晴らしいポテンシャルを秘めています。

青く美しいビーチがいくつも広がっており、シュノーケリングやダイビング、海水浴などのさまざまなアクティビティを満喫することができます。

それに加えて、クジラやウミガメを間近に見られるチャンスがあるのも小笠原の魅力の一つ。沖合へ出れば、1年を通じてホエールウォッチングやドルフィンウォッチングをすることも可能です。大きなザトウクジラジャンプのはまさに雄大。水中に潜ればクジラの「歌」を聞くこともできます。

1月~4月はザトウクジラが、5月~11月はマッコウクジラを観ることができます。

ダイビングではどこまで持つずくであろう美しい青サンゴや戦時中の沈没船や特攻機も見ることができます。バラエティあふれるダイビングポイントが尽きません。

 

クジラの声が聞こえる山々


海のアクティビティも当然ながらおすすめですが、小笠原諸島では小高い山がいくつか存在することも忘れてはいけません。
峠の頂上から見る海と空と砂浜の眺めは、言葉では言い表せないくらいに素晴らしいものです。

父島の中心部に近い三日月山の山頂には展望台があり、周囲の景色を一望することができます。

山からのホエールウォッチングのポイントにも近いので、山からザトウクジラを観れることもあります。

また、太平洋に沈む夕日を眺めるのもロマンチックでたまりません。

 

小笠原名物?「お客様のお見送り」

テレビなどのメディアで取り上げられたこともあるので、知っている方も多いかもしれません。

小笠原村では、はるばる遠くからお越しになった観光客などのお客さんを心からおもてなしします。

宿泊施設や観光施設をはじめ、お店や街の人々にいたるまで、短い滞在時間を最高に楽しんでもらえるように努め、おがさわら丸が父島を離れる時は、まるで島中の人が来たかと思うほど盛大なお見送りをします。

湾をでるまで何隻もの船が並行して走り、別れを惜しみます。

小笠原の人々の心の温かさに触れ、また来よう、また帰ろうと思うことでしょう。

もし、薬剤師としてこの島に着任する機会があれば、島民と共に、観光客のお見送りをすることもあるかもしれません。

 


多くの人々が一度は行きたいと思うけれど、なかなか踏み出せない小笠原諸島。しかし、長い船旅の後には感動の世界が待っています。

沖縄などのリゾート離島にも魅力はありますが、ここ小笠原には賑やかなリゾート地には存在しないありのままの自然の魅力があふれています。もし、小笠原に移住し、薬剤師をするチャンスが巡ってくるのであれば、思い切って挑戦してみるのも良いかもしれません。

 

 小笠原諸島へのアクセス


小笠原諸島の父島へは東京・竹芝桟橋との間に概ね6日に1便運航している定期船「おがさわら丸」(小笠原海運)で、およそ25時間かけて到着します。そのほか観光シーズンのみ豪華客船・フェリーが運航されています。

母島へは父島の二見港より定期船「ははじま丸」で約2時間ほどで到着します。

 

小笠原諸島の医療機関


小笠原諸島の医療機関ですが、父島に小笠原村診療所と南歯科医院そして薬局が1件(アサヒ薬局)、母島に小笠原村母島診療所が存在します。

アサヒ薬局といっても、実質は島の「なんでも屋」のような存在で、メインのお土産と少しOTCが置いている程度で調剤は行っておりません。

小笠原諸島唯一の薬剤師は父島の小笠原村診療所(外部リンク)でご勤務されています。

小笠原村診療所の診療科目は内科、小児科、外科、整形外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、精神科、歯科 で、その他、耳鼻科・眼科・小児科は年2回、整形外科・皮膚科は年1回、産婦人科は年6回の専門診療を行っています。

小笠原村診療所では基本的には院内処方箋により調剤を行っていますが、採用のない医薬品が処方されたり、在庫が不足してしまった場合は院外処方箋を発行します。しかし、前述したように小笠原諸島には薬局が存在しないため、内地の薬局に医薬品の郵送をお願いするという珍しい体制をとっています。

また、父島唯一の小笠原診療所には透析設備がありません。

もし、診療所で処置できない重症の方や緊急入院が必要となる方などは海上自衛隊などの協力により内地医療機関に搬送しているようです。

参考:小笠原村診療所 http://www.ogasawaraclinic.jp H29.7.16 確認.
内容は変更されている場合があります

小笠原診療所で働いている薬剤師は2018年3月末で退職する予定で、現在小笠原診療所のホームページにて新たな薬剤師を募集しています。募集締め切りは8月末日のようですので、我こそはと意気込む方は早めに連絡した方が良さそうです。

面接は東京内地の小笠原事務所のテレビ会議システムを用いて行われます。前回の面接時も複数人応募者がいたようです。

→(追記 2017.9.7)

小笠原村のホームページより確認したところ、小笠原診療所の薬剤師の募集要項がなくなっていたので、募集は終了したと思われます。今後、再募集などの情報がありましたら、再度当ページにてお知らせしたいと思います。

 

離島薬剤師の給料・待遇 in 小笠原諸島

出典:http://www.ogasawaraclinic.jp

小笠原診療所の業務量は非常に多岐にわたり、過酷と現職者は語っています。(Pharmatribune Vol.9. 8. Augst, 2017より)

また、離島での勤務は高給であると言われていますが、小笠原診療所の職員は地方公務員であるので、一般的なイメージほどの高給ではありません

もちろん、公務員であるので福利厚生面はしっかりしていると思われます。

 

小笠原村診療所の薬剤師は1人のみです。すなわち、父島、母島の島民にとって薬剤師は1人のみなのです。もちろん医師や看護師などの他の医療スタッフがおりますが、薬に関するこの責任を持つことになります。全島民の命を預かる重圧に耐えられる強さが必要かもしれません。

 

もし東京の遠い離島での勤務を希望されるなら、少し北上した伊豆諸島にある八丈島や大島などを検討してみてはいかがでしょうか。

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