現在、各医療機関で新型コロナワクチンの予防接種が行われていますが、市町村が主体となって集団接種も行われています。
このたび薬剤師の派遣会社を通じて、新型コロナワクチン希釈分注業務(ファイザー製)の薬剤師募集があったので実際に参加してきました。
「薬剤師は何を任されているのか」「新型コロナワクチン接種事業に参加したいけど注射器は扱ったことがないから不安」という方などに読んでいただけたら幸いです。
新型コロナワクチン接種事業とは
接種目的:新型コロナウイルス感染症による死亡者や重症者の発生をできる限り減らし、結果として新型コロナウイルス感染症のまん延の防止を図る。
各自治体の役割は以下の通り。
上記のように、今回私は市町村から直接(派遣会社を通して)委託されて、ワクチンの希釈分注に参加しているということになります。
参考:厚生労働省が公開している新型コロナワクチン接種事業に関して(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000680223.pdf)
新型コロナワクチン希釈分注に参加する前の準備
薬剤師の募集は薬剤師会や派遣会社から
多くの場合は都道府県もしくは市区町村の薬剤師会を通して募集があるようですが、私の場合は以前登録していた派遣会社経由の参加です。
基本的に数週間〜1ヶ月前を目安に予め派遣会社からの募集があるようですが、私の場合は前日の臨時募集だったので急遽参加するようになった経緯です。急に接種人数が増えることがあり、それに応じて人員数を調整しているようです。
私は薬剤師会主催の希釈分注の研修などに参加していなかったので、学生実習以来の作業でした(むしろ注射器を触ったかどうかも覚えていない笑)。
ただ、当日現場には経験者がいるとのことでしたので、事前に薬剤師会や病院薬剤部、個人が提供しているYouTube動画を利用して勉強しました。
事前に参考にしたワクチン(ファイザー製)希釈分注の動画
様々な方が大変わかりやすい動画を制作していただいて非常に助かりました。ただ、人や施設によって希釈分注の手技は少し異なるようで、少し混乱しました。
手順や注意すべき点はだいたいどの施設も同じでしたが、バイアル内を「陽圧」「陰圧」にする考えが施設や行う人によって違うようでしたが、希釈分注を行ううちに自分なりのやり易い方法が見つかります。
私が参考にした動画を以下にご紹介しますので、もし今後新型コロナワクチンの希釈分注業務に参加される方は参考にしていただけたら幸いです。
ワクチン希釈(滋賀県薬剤師会)
新型コロナワクチンの取り扱い(市立三次中央病院薬剤科)
ワクチン希釈の手順(千葉大学病院)
ワクチンの希釈と充填間違えやすいポイント(笑顔の薬局 薬剤師ゆきさん)
↑笑顔の薬局 薬剤師ゆきさんはその他にも関連動画を複数公開しており、とてもわかりやすかったです。
新型コロナワクチン(ファイザー製)希釈分注してみた
集団接種会場は思いのほかアットホーム
直前にYouTube動画でチェックしたものの、注射器なんて学生実習の時以来10年以上触れていなかったので、前日はものすごく不安で眠れない夜を過ごしました。メンタル弱めです。
しかし実際に会場へ行ってみると、現場スタッフの方はとても親切な人ばかりで安心しました。
会場は市町村の公民館のような施設で、入口から市の職員が誘導してくれます。
医師、看護師、薬剤師の3職種に分けられた名簿に記名し、名札と白衣を渡され、荷物を置きます。その場所で白衣を着用し、待機。
ワクチン接種会場のスタッフ構成
接種会場は多くのスタッフが業務にあたっていましたが、その職種構成は以下の通りです。
会場によって異なりますが、400人規模の新型コロナワクチン(ファイザー製)ではおおよそ以下の構成になっていました。(会場や市区町村、運営企業によって配置は多少変わるようです。*)
- 医師3〜4名(問診2〜3名、観察1人)
- 看護師4〜6名
- 薬剤師2〜3名
- 市区町村の職員3〜5名
- スタッフ(イベント会社など)20名以上
個人的な印象としては、「クセがつよい医師」「できる看護師」「控えめな薬剤師」「優しい職員」「頑張るスタッフ」という感じです。もちろん現場によって異なると思います。
揉め事を起こす看護師やドタキャンする医師・薬剤師も現場によってはいたようなので、どんな環境で働くことになるかは運次第かもしれません。
実際の新型コロナワクチン(ファイザー製)希釈分注作業
集合時間の少し前に朝礼があるのですが、スタート時に分注された新型コロナワクチンが用意されている必要があるため薬剤師は少し早めに作業を始めます。まだワクチン接種自体は始まっていないので、看護師も薬剤師のお手伝いをするのですが、さすが看護師、手慣れている感がありました。
横目で見ていたのですが、看護師の希釈分注の方法はそれぞれ個性があり、マニュアルと少し異なっているように感じました。事前のYouTube動画では、作業に関してかなり細かい指示がありましたが、実際、コアなところが正しければ、細かいところはどうでも良いのでしょう。
最終的には薬剤師も看護師とだいたい同じスピードで希釈分注が可能になりましたが、何にせよ、もしこの事業に看護師が充足していれば、薬剤師は不要だと思いました。
定刻になると、リーダーをのぞく看護師はワクチンを接種する部屋に駆り出されるので、残りのワクチンの希釈分注作業は薬剤師のみでおこないます。
今回の現場では、接種希望者のわりに薬剤師人数が豊富なこともあって、割とゆっくりと希釈分注作業を行うことができましたが、会場や人員によっては忙しくなるようです。
昼の休憩時間も1時間半〜2時間くらいありました。ロケ弁当などはなかったので、私は外食しましたが、持参しても問題ありません。
ちなみに私は何か衛生的な施設でかつクリーンベンチで希釈分注を行うものだと思っていましたが、実際は会議室程度の部屋に設置された長机に白いシートを被せた程度の環境で作業を行いました。
新型コロナワクチン(ファイザー製)希釈分注作業のフロー
基本的に動画通りの流れでワクチンの希釈分注作業が行われましたが、実際に私が行った流れを以下のメモに残します。
【生理食塩水シリンジの準備】
- ゴム手袋の上から手をアルコール消毒
- アル綿で大塚生食注の開け口を消毒
- 希釈用シリンジに針を装着し、大塚生食注を開封
- 生食1.8mLを吸引し、気泡抜き、キャップをする
- 残った大塚生食注はバケツに破棄
- 監査
【新型コロナワクチンの希釈】
- 新型コロナワクチン(コミナティ筋注)のバイアルの蓋を外し、ゴム栓をアル綿で消毒
- バイアル内の不純物をを確認したのち、転倒混和10回行う
- バイアル内に生食を垂直に穿刺し、生食を静かに注入する
- バイアル内の空気を1.8mL吸引し、針を引き抜く
- シリンジと注射針は破棄
- バイアル内に不純物はないか確認し、転倒混和10回行う
- トレーに希釈時間と期限(6時間後の時間)を記載する
【新型コロナワクチンの分注(5〜6本)】
- あらかじめ接種用シリンジと注射針をそれぞれ6本を袋から取り出しセットしておく
- 注射針をバイアルに垂直に穿刺し、懸濁液0.3mLを抜き、気泡を抜く
(注射針を入れるときに0〜0.35mL程度空気を入れて内圧を調節する。これは施設や薬剤師によって異なる。本来は陽圧にして汚染を防ぐべきであるが、実際は陰圧にして液漏れを防ぐ薬剤師が多いと思います。) - 針を抜き取り、キャップをする
- この操作を6本同様に行う
- 分注したシリンジ6本が入ったトレイを遮光する
- 監査
空気を注入して陽圧にしたり、抜き取って陰圧にしたりと一部のYouTube動画とは方法が多少異なっていましたが、私は以上の流れで行いました。(もし行う際は現場の方法を優先してください。)
生理食塩水を吸引し準備した段階と、最終的にワクチンを希釈分注した段階で別の人に監査してもらいます。
感想としては、特に気泡抜きに時間がかかってしまい、早く抜けるよう慣れるまでが大変でした。また、シリンジ6本目分注時、希釈液が足りなくなってしまい、バイアル1本につきシリンジ5本しか用意できないこともあるようで注意が必要です。
希釈分注中に看護師に教えていただいたのですが、何度もバイアルのゴム栓にシリンジを刺すと針先が鈍化してしまい、実際にワクチン接種するときに被接種者に苦痛を与えてしまうようです。
監査でシリンジに希釈液が0.3mLに達していなかったり、気泡が残っていたりすると再度バイアルのゴム栓にシリンジを刺すことになります。従って、監査が1発クリアするよう注意しました。
また、ワクチンの希釈分注作業以外にも受診者の予診相談やワクチン接種後の経過観察中の相談なども薬剤師業務としてあるようですが、今回はありませんでした。
(2021.9追記)
注射器はさまざまなメーカーが製造販売しており、各自治体や時期によって納入する製品が異なります。
基本はシリンジと針の分離型のものが多いのですが、シリンジ針一体型の注射器を採用する自治体も出てきています。
私が使ったのは『LDSシリンジ(1mL)』というシリンジ針一体型の注射器で、スミスメディカル株式会社という米国の企業が製造販売しています。製造は株式会社ソルミレニアムという上海に本社をもつ企業です。
分離型の注射器では、1バイアルにつき多くて6人分確保が限界ですが、このLDSシリンジではなんと7人分分注することができます。(それだけ余裕ということで、実際は6人分しか作成しません。)
したがって、初心者でも分注しやすい一方、欠陥品が非常に多い。
亀裂、ひび割れ、そしてポリプロピレンもしくはシリコーンと思われる何かの剥がれが多く見られます。注射器100本につき数本は確認できるほど。
分注スピードは格段に早くなりますが、監査を慎重に行わなければなりません。
ファイザー製ワクチンの温度管理
ワクチンの本数調整も薬剤師の仕事なので、温度管理と時間には注意します。
ファイザー製ワクチンは基本的に「冷凍(-20±5℃)*」「冷蔵(2〜8℃)」「常温(2〜30℃)」の3つの温度で管理します。
*超低音冷蔵庫は-75±15℃
- 冷凍 → 冷蔵(解凍3時間)30日間保存可
- 冷凍 → 常温(解凍30分)2時間保存可(←ここが短いので注意)
- 冷蔵 → 常温(30分)2時間保存可
*分注後は6時間保存可(希釈前より保存期間が増えていることに注目)
*解凍後の再凍結は不可
*解凍日付時間〜希釈開始限界を箱などに記載する
接種希望者人数はあらかじめ決まっているので、最初はざっくり準備しても大丈夫ですが、最後の方はワクチンの廃棄が出ないようこまめに人数をカウントし、常温に戻すべきワクチンの本数を把握することが大切です。
また、何日後にその会場でワクチン接種があるのか職員に確認し、帰宅前には冷蔵庫に移すべきワクチン本数を入庫します。発注などはしません。
なお、情報は日々更新されています。最新の情報を利用してください。
新型コロナワクチン希釈分注業務の今後
日本国内のワクチン2回接種者は人口の4.8%
政府のまとめによると、6月14日時点での国内の新型コロナワクチンの接種状況は1758万587人で、そのうち2回接種は610万4732人(合計2368万5319回)。日本の総人口のおよそ13.8%が1回目の接種を終えています(2回摂取は4.8%)。
65歳以上の高齢者はすでに33.3%が1回目の接種を終えており、政府は高齢者への接種を7月末までに完了させることを目指しているようです。
他社製のワクチンの普及により、薬剤師の需要は低下する
6月8日からはできるだけ早く接種を実施したい企業や大学などの職域接種が開始されています。
自治体で行われる新型コロナワクチンの集団接種ではファイザー製のワクチンが使われていますが、この職域接種ではモデルナ製のものが使われることになっています。
このモデルナ製の新型コロナワクチンはファイザー製のものと同様に2回接種となっており、発症予防効果も94%とファイザーの95%とほぼ同様。異なる点として、モデルナ製のものは使用する際に生理食塩水で希釈が必要ないので、ファイザー製のものより扱いやすく大規模接種に向いていると考えられます。
また今後、アストラゼネカ製や国産の新型コロナワクチンもリリース予定です。(未定)
これらから考えられることは、まだしばらく新型コロナワクチン接種事業は継続するものの、他社製のワクチンが普及することにより薬剤師要員は減少していくと考えられます。
その一方で、薬剤師が新型コロナワクチンの打ち手になることも検討されています。
すでに医師や看護師、歯科医師に続き、臨床検査技師と救急救命士もワクチン接種の担い手に加わることが決まっていますが、もし薬剤師が打ち手に加わるようであれば、新型コロナワクチン接種事業における薬剤師の需要は継続されるでしょう。
(5月31日に開催された厚生労働省の検討会では、薬剤師はワクチンの調製や予診のサポート、接種後の経過観察などは担う一方で、打ち手としては見送りとなっている。)
国:
ワクチンの購入、購入ワクチンの卸売業者への譲渡、接種順位の決定、ワクチンに係る科学的知見の国民への情報提供、健康被害救済に係る認定、副反応疑い報告制度の運営
都道府県:
地域の卸売業者との調整(ワクチン流通等)、市町村事務に係る調整(国との連絡調 整、接種スケジュールの広域調整等)、優先的な接種の対象となる医療従事者等への接種体制の調整、専門的相談対応
市町村:
医療機関との委託契約と接種費用の支払、住民への接種勧奨・個別通知(予診票、クーポン券)、接種手続等に関する一般相談対応、健康被害救済の申請受付・給付、集団的な接種を行う場合の会場確保等