前回の記事『新型コロナワクチン希釈分注業務の薬剤師募集があったので参加してきた(ファイザー編)』に引き続き、今回はモデルナ製ワクチンの分注業務に参加してきたので、その活動報告をシェアします。
今回は色々問題があって大変でした(泣)
職域接種では、モデルナ製ワクチンの使用が広がっていくようなので、これからモデルナ製ワクチンの分注業務に参加される薬剤師の参考になれば幸いです。
Contents
新型コロナワクチン接種事業とは
新型コロナワクチンの接種事業に関しては前回の記事『新型コロナワクチン希釈分注業務の薬剤師募集があったので参加してきた(ファイザー編)』を参照にしてください。
今回のワクチン接種事業も自治体が主体となって行う集団接種です。なので、今後増加するであろう職域接種とは異なります。
- 地域の負担を軽減し、接種の加速化を図るため、賛同する企業や大学等において職域単位での接種を可能とする
- 医療従事者や会場等は企業や大学等が自ら確保し、自治体の接種事業に影響を与えないこと
モデルナ製新型コロナワクチン分注に参加する前の準備
薬剤師の募集は薬剤師会や派遣会社から
今回も私は派遣会社を通じて参加しました。
最近では、薬剤師会の薬剤師が中心となってワクチン接種事業に参加する傾向が強く、それでも充足しなかった場合に派遣会社に依頼しているようです。(派遣会社は仲介料がかかってしまうので)
接種予定日の2〜3日前に薬剤師の欠員が出そうとのことで、メールで仕事の依頼が入りました。たまたま、その日は勤務している調剤薬局の休日であったので、私は今回のモデルナ製のワクチン接種事業に参加することにしました。
派遣会社では基本的には連続で勤務できる人を優先しているようでしたが、どうしても人手が足りないようでしたら、数日前〜前日に連絡が入ります。勤務の意思を示し、確定すると、市区町村が作成したモデルナ製ワクチンの調整方法や温度管理などのマニュアルが記載されたPDFスライドが添付されたメールがきます。(派遣会社や依頼する市町村によって異なる)
なお、ワクチン接種事業を行う派遣会社は限られています。株式会社メディカル・コンセルジュ運営のMC─ファーマネットで募集していますが、法律上、各営業所で事前登録(面談)が必要になります。ちなみに、ワクチン接種の仕事は人気なので割と早めに薬剤師は充足します。
モデルナ製ワクチンの場合、事前学習は少なめ
ファイザー製のワクチンと異なり、モデルナ製ワクチンの分注操作のYouTube動画はありませんでした。というのも、モデルナ製ワクチンの分注は非常に簡便で、ファイザー製ワクチンの分注手技ができていれば、モデルナ製は問題なくこなすことができます。
したがって、もしファイザー製ワクチンの経験者であれば、モデルナ製ワクチンは分注量と温度管理(時間)さえ理解していれば問題ありません。(モデルナ製ワクチンの方がとても簡単。)
ファイザー製ワクチンの希釈分注も行なったことのない完全に未経験の薬剤師の方は、ファイザー製ワクチンの希釈分注の動画で基本的な注射手技を理解してから、PDFでモデルナ製ワクチンの分注量や温度管理を理解すればいいと思います。
なお、ファイザー製のワクチン希釈分注動画は以前の記事『新型コロナワクチン希釈分注業務の薬剤師募集があったので参加してきた(ファイザー編)』でご紹介しています。
新型コロナワクチン(モデルナ製)分注してみた
今回の会場は慌ただしいかつ厳しい
今回のワクチン分注作業は前回の会場と異なる会場で行いました。
こちらの会場は集団接種の会場としての利用は初回だったようで、勤務開始前から準備などで慌ただしかったです。私が到着した頃にはすでに薬剤師と看護師の皆さんは働いていました。(挨拶しても、誰も反応せず)
あまりにバタバタしていたので、迷いながら休憩室に到着。休憩室に置いてあった名簿に勝手に名前を記入し、勝手に白衣を借りてすぐに現場に向かいました。(通常は職員や保健所の方に案内されると思います。というか私の指定された集合時間が間違っていたみたいです。)
ワクチン接種会場のスタッフ構成
今回の接種会場においても、前回と同様のスタッフ構成でしたが、何らかの理由で医師が1名バイトをキャンセルしたようでした。よくあるようです(苦笑)
また前回と異なるのは、市の職員の代わりに保健所の方が統括的な立ち位置にいました。
会場によって異なりますが、今回の500人規模の新型コロナワクチン(モデルナ製)ではおおよそ以下の構成になっていました。(会場や市区町村によって配置は多少変わるようです。)
- 医師3名(問診2名、観察1名)今回は2名でした
- 看護師4〜6名(リーダー看護師1名含)
- 薬剤師2名
- 保健所の職員数名
- スタッフ(イベント会社など)20名以上
個人的な感想としては、モデルナ製はファイザー製の新型コロナワクチンと比較して分注までの手技が簡単で、500人規模ですと薬剤師2名でも余裕持ってこなせると思いました。もうファイザー製の希釈分注には戻れない、そんな気持ちになります。
ただ、それも会場によりけりで、大規模接種会場になると、薬剤師一人当たりの人数が多くなることもあり大変なようです。
今回の会場では看護師同士で派閥争いといいますか、何やら告げ口や陰口が聞こえたので、少し不快に思えました。どの業界にもクセの強い人はいます。大人の対応をして欲しいものですね(苦笑)
実際のモデルナ製コロナワクチン分注作業
何度も言いますが、モデルナ製はファイザー製と異なり、分注作業が簡単です。
なぜかと言いますと、まず生理食塩水の希釈作業がない。モデルナ製の新型コロナワクチンはバイアルに入った溶液をそのまま使用します。したがって、この希釈していた工程分作業が早くなります。
第2に、モデルナ製ワクチンは1バイアルにつき10回分シリンジに分注することができます。
ファイザー製が6回分であるのに対し、モデルナ製は10回分です。全体として分注する回数は同じですが、1トレイで10回分できるとやはりスピードが早いです。
一方で、モデルナ製ワクチンの難点をあげるとしたら、ファイザー製より白濁しており、粘性があることです。
白濁していることにより、バイアル中の針先が見えづらいので、水面〜ゴム栓ギリギリの10本目を抜き取るときに結構慎重になります。また、粘性があるので、少し気泡が残りやすくなります。
また、バイアルのゴム栓が硬く、しっかり垂直に針を刺さないと針が曲がってしまいます。また、1バイアルにつき10回も針を刺すので、針穴の密度が高くなり、針穴を見失った場合に同じ穴に2度針を刺してしまい、コアリングがおこる可能性も出てきます。(目がかなり疲れます)
慣れてくると、1バイアルにつき5分程度で分注が可能です。(看護師はもっと早いので驚かされます。)でも、速さも必要ですが、それより監査をしっかり1度で通過するために正確に行うことの方が重要です。監査時に再度抜き取るのは二度手間です。
ファイザー製よりモデルナ製の方が簡単と言っても、1人で30バイアル以上行わなけばならない会場もあります。
30〜40バイアル分注して、監査もして、シリンジと針の接続も300〜400本・・・。結構クタクタになりますよ。
これは現場に行かないと分からないのですが、分注用のシリンジには1mLのシリンジの場合と2mLの場合があります。ファイザー製もモデルナ製はそれぞれ0.3mLおよび0.5mL抜き取るので、1mLシリンジで十分でかつ人気です。
1mLシリンジの方が気泡ができにくく、量も正確に測り取りやすいと言われています。なのでスピードも1mLシリンジを扱った方がわずかに速くなることが多いです。
モデルナ製コロナワクチン希釈分注作業のフロー
そんなに複雑な作業は行っていませんが、実際に私が行った流れを以下のメモに残します。
- モデルナ製コロナワクチン(COVIT-19ワクチンモデルナ筋注)のバイアルの蓋を外し、ゴム栓をアル綿で消毒
- バイアル内の不純物をを確認したのち、テーブルに接しながら円を描くように混和10回行う
- トレイに希釈時間と期限(6時間後の時間)を記載する
- シリンジの目盛りを0.5mLに合わせ、注射針をバイアルに垂直に穿刺し、空気を0.5mL注入。
(空気を注入しないで行う薬剤師もいます。陰圧になりすぎるので液は全く溢れませんが、衛生的にはよくないかもしれません。) - 溶液0.5mLを抜き、気泡を抜く
- 針を抜き取り、キャップをする
- この操作を10本同様に行う
- 分注したシリンジ10本と使用済みバイアルが入ったトレイを遮光する
- 監査
私は以上のように行いましたが、もし異なる場合は現場の方法を優先してください。
モデルナ製ワクチンの分注はファイザー製と比べてみるとわかるように圧倒的にその工程数が少ないです。
感想としては、ファイザー製のワクチン希釈分注になれていたのでほんと楽だな〜といった感じです。
ただし、なかにはシリンジ10本目分注時、希釈液が足りなくなってしまい、バイアル1本につきシリンジ9本しか用意できないこともあるようなので注意が必要です。
希釈分注中に看護師に教えていただいたのですが、何度もバイアルのゴム栓にシリンジを刺すと針先が鈍化してしまい、実際にワクチン接種するときに被接種者に苦痛を与えてしまうようです。
監査でシリンジに希釈液が0.5mLに達していなかったり、気泡が残っていたりすると再度バイアルのゴム栓にシリンジを刺すことになります。したがって、多少分注スピードが遅くなっても、監査が1発クリアするよう注意しました。
ゆっくり作業を行なったとしても、最終的に、時間を持て余すくらいに薬剤師は暇になります。
とび込みで来る予防接種希望者も稀にいますが、基本的に事前の予約表通り(時間通り)にワクチン接種は進行します。今回は医者のドタキャンの影響や体調を崩した方の対応で予防接種が一時ストップしたので、予定より時間はおしました。
また、薬剤師は受診者の予診相談やワクチン接種後の経過観察中の相談などもして良いようですが、私は行いませんでした。
モデルナ製ワクチンの温度管理
ワクチンの本数調整も薬剤師の仕事なので、温度管理と時間には注意します。
モデルナ製ワクチンは基本的に「冷凍(-20±5℃)」「冷蔵(2〜8℃)」「常温(15〜25℃)」の3つの温度で管理します。(少しファイザー製と異なるので注意)
- 冷凍 → 冷蔵(解凍2時間30分)30日間保存可
- 冷凍 → 常温(解凍1時間)12時間保存可
- 冷蔵 → 常温(15分)12時間保存可
*バイアルに穿刺後は6時間のみ保存可
*解凍後の再凍結は不可
*解凍日付時間〜希釈開始限界を箱などに記載する
*時間もファイザー製と異なるので注意
接種希望者人数はあらかじめ決まっているので、最初はざっくりバイアルを準備しても大丈夫ですが、最後の方はワクチンの廃棄が出ないようこまめに人数をカウントし、常温に戻すべきワクチンの本数を把握します。
また、何日後にその会場でワクチン接種があるのか職員に確認し、帰宅前までには冷蔵庫に移すべきワクチン本数を入庫します。発注とかはしません。
なお、情報は日々更新されています。最新の情報を利用してください。
新型コロナワクチン希釈分注業務の今後
日本国内のワクチン2回接種終了者は人口の16.8%
政府のまとめによると、2021年7月10日時点での国内の新型コロナワクチンの接種状況(1回目)は3605万3625人で、そのうち2回接種は2129万6599人(5735万224回)。日本の総人口のおよそ28.4%が1回目の接種を終えています(2回摂取終了者は16.8%)。(首相官邸データ)
65歳以上の高齢者はすでに74.0%が1回目の接種を終えており、43.2%が2回目も終了しています。政府は高齢者への接種を7月末までに完了させることを目指しているようです。
およそ1ヶ月前の前回の記事「新型コロナワクチン希釈分注業務の薬剤師募集があったので参加してきた(ファイザー編)」の終了者数と比較すると、国民全体ではおよそ15~20%増加しているのがわかります。高齢者では30%増加しています。
一部の若い世代を中心にコロナワクチン接種を敬遠しているとは言われており、順調に進むかどうかわかりませんが、10月頃には日本国民の50%以上が2回目のワクチン接種を終了していると考えられます。
すでにワクチン接種の薬剤師の需要は低下している
6月8日からはできるだけ早く接種を実施したい企業や大学などの職域接種が開始されています。
自治体で行われる新型コロナワクチンの集団接種ではファイザー製のワクチンが使われていますが、この職域接種ではモデルナ製のものが使われることになっています。
このモデルナ製の新型コロナワクチンはファイザー製のものと同様に2回接種となっており、発症予防効果も94%とファイザーの95%とほぼ同様。異なる点として、モデルナ製のものは使用する際に生理食塩水で希釈が必要ないので、ファイザー製のものより扱いやすく大規模接種に向いていると考えられます。
また今後、アストラゼネカ製や国産の新型コロナワクチンもリリース予定です。(未定)
これらから考えられることは、まだしばらく新型コロナワクチン接種事業は継続するものの、他社製のワクチンが普及することによりワクチン接種における薬剤師の需要は減少していくと考えられます。すでに会場によっては薬剤師なしで医師および看護師とスタッフのみで業務を行う会場も出てきています。
その一方で、薬剤師が新型コロナワクチンの打ち手になることも検討されています。
すでに医師や看護師、歯科医師に続き、臨床検査技師と救急救命士もワクチン接種の担い手に加わることが決まっていますが、もし薬剤師が打ち手に加わるようであれば、新型コロナワクチン接種事業における薬剤師の需要は継続されるでしょう。
(5月31日に開催された厚生労働省の検討会では、薬剤師はワクチンの調製や予診のサポート、接種後の経過観察などは担う一方で、打ち手としては見送りとなっている。)
>> コロナワクチン接種事業に参加するには登録が必要です詳しくはこちら(主に東京都での募集です)