今回は、新しいカテゴリー「海外の離島薬剤師」の第一弾として「香港島」の薬剤師についてご紹介します。
香港島は本土と地下鉄で接続しているので、そもそも離島なのか?というご指摘もあるとは思いますが、とりあえず同じ「島」というくくりで、息抜き程度にご覧ください。
Contents
世界屈指のビジネス拠点『香港島』
香港ってどんなところ?
日本最西端の離島である与那国島より940キロメートル西へほど進んだところに位置する香港島は、アヘン戦争後の南京条約で中国からイギリスに永久譲渡された地域です。そのおよそ150年後の1997年に中国に返還されました。
香港は香港島や九龍半島、新界のほか235の島々から成り立っており、面積は1104平方キロメートルと日本の沖縄本島と同程度の大きさです。
人口はおよそ730万人で、世界で最も人口密度が高い地域の1つとなっており、高層マンションがとにかく多いのが特徴。
様々なものが縦に伸びすぎて、看板の位置が異様に高かったり、バスや路面電車も2階建となっています。
その香港の高層ビル群が織りなす夜景は「100万ドルの夜景」と称され、世界三大夜景の1つと言われています(冒頭写真参照)。
香港の高層ビル群 photo by離島薬剤師どっとこむ沖縄
香港は世界屈指のビジネス拠点であり、2012年5月にスイスのシンクタンクによって、2年連続で「世界で最も競争力の高い国・地域」に選出されております。
裕福層も非常に多く、金融資産100万ドル以上を持つ富裕世帯は約21万世帯であり、これはフランスやインドを凌いでいます。つまり、11世帯に1世帯が金融資産100万ドル以上を保有していることになります(ホンマかいな!)。
ちなみに個人資産10億ドル以上を保有する大富豪は2016時点で68人であり、これはニューヨークに次ぎ、世界で2番目に多い都市となっています。
とりあえず、「経済がものすごく発展している」、「お金持ちが多い」、「土地がないので色々縦に長い」というのが香港島の特徴です。
なお、香港人の平均寿命は男女ともに世界一。これは食生活や医療制度に何かヒントがありそうですね。
香港人は中国人ではないってよ
実際、1997年に香港は中国へと返還されているし、漢字を使用しているし、アジアのスターであるジャッキー・チェンも中華圏の言葉を喋ってるし・・・。
「つまり、香港人は中国人ってことでしょ?」
と日本の方はそう思うかもしれませんが、これを香港の人に言うと機嫌を損ねるので注意が必要です。
香港はもともと清の一部で中華圏ではあるのですが、使用する言語は「広東語」で、使用する漢字も「繁体字」(一方で北京周辺では「簡体字」を用います)。
日本人的には広東語も中国語(北京語)も同じように聞こえるため、香港人も中国人も同一視してしまいがちですが、両言語は外国語レベルに異なります(方言レベルではありません)。
こんにちは
中国語では「你好(ニーハオ)」ですが、広東語では「你好(ネイホウ)」
ありがとう
中国語では「谢谢(シェシェ)」ですが、広東語では「多謝(トシェ)」
美味しい
中国語では「好吃(ハオチー)」ですが、広東語では「好味(ホウメイ)」
近年では中国の生活水準も向上してきましたが、香港の水準はそれと比較して極めて高く、物価も日本と同様もしくは少し高め。美意識が高い女性も多いです。
要するに、香港人は中国に対して「香港の方がより洗練されている」と言う意識があり、昔から中国に対して「自由がない」「偽造品が多い」「品質が悪い」「マナーが悪い」と言う考えがあります。
しかし、近年の中国の発展や中国政府の政策もあってか、そのマイナスなイメージも消えつつあります。
余談ですが、アジアのスタージャッキー・チェンは中国寄りの発言や、女癖の悪さから香港ではあまり好かれていません。
記事を書いている私はそれでもジャッキーは好きですが。
世界一の長寿国「香港の医療」
香港の医療機関と国民意識
香港の医療水準は非常に高いです。
香港には政府の経営する公立病院、私立病院、開業医が経営するクリニックがありますが、受診する病院によって医療費が大幅に異なってきます。
基本的に、公立病院での診察や治療は非常に安価ですが、人口に対するその病院数が非常に少なく、診察を受けるまでにかなり待たされます。
一方で、私立病院の場合は、待たされる時間はグッと短くなりますが、診察にかかるお金は非常に高くなります。
症状にもよりますが、初診費用だけでも500~ 1,000ドル(日本円で約 7,000~ 14,000円)もかかります。
これほど高くなる理由の1つとして、香港では日本のように国民皆保険制度ではないことが挙げられます。会社の福利厚生で医療保険に加入することもありますが、加入する保険によってカバーされる疾患は異なり、負担割合もそれぞれ異なります。
さらに、医師個人が自由に診療報酬を決定できるため、患者負担は高くなる傾向があります。
したがって、風邪のような比較的簡単な症状や、一度かかったことのある症状に関しては街の薬局へ行くセルフメディケーションが香港では一般的です。
香港にはワトソンズやマニングスなどの大手チェーンドラッグストアーや小さな個人薬局、そしていたるところに漢方専門薬局があります。
漢方薬局の近くには中医が開業していることも多く、香港や中国の人々にとって漢方薬は生活の一部となっています。
また、「医食同源(いしょくどうげん)」という考えが香港では根付いているため、普段の生活から健康に対する意識は非常に高く、この日頃の行いや医療水準の高さから、世界一の長寿国となったのでしょう。
店頭で売られている生薬:香港ではいたるところで生薬が販売されています。民間人にとっても漢方は非常に身近な存在です。
なお、香港でも「処方せん医薬品」は日本と同様に、医師の診断に基づく「処方せん」がないと医薬品を購入することができません。
しかし、街の小さな薬局では表に出ないような裏の取引で「処方せん医薬品」を処方箋なし患者に渡していることも多いようなので、まだまだ医薬品に対する規制は甘いようです。
香港の薬局「薬房」と「薬坊」
香港の薬局は日本と比較して非常に多く、町のいたるところで見かけます。
「薬房」と掲げているお店が日本でいう「薬局」のことを指します。時々「薬坊」と掲げている店舗もありますが、こちらは薬剤師がいない店舗形態のようです。
香港のドラッグストアーは日本の雰囲気とほとんど変わりませんが、販売されている商品が日本のものとは大きく異なります。
香港を訪れた際にはぜひ一度立ち寄ってほしいと思います。
↑ 屈臣氏(ワトソンズ):香港の沙田区に本拠地を置くドラッグストアチェーン。世界に1800店舗以上を展開している。
↑ 萬寧(マニングス):香港に約300店舗を展開している。個人的には接客がワトソンズに比べてよかったです。
↑ 店舗の奥の方にはお薬のコーナーがあります。誰もいませんでしたが。
↑ 町の薬局。外観は日本とほとんど同じです。
↑ 漢方薬局ではたくさん種類の生薬を取り扱っています。ただし、生薬を取り扱うには、必ずしも薬局である必要はありません。様々な場所で売られています。
↑ 例えば、日本ではナツメの実を乾燥した「大棗」がありますが、香港では様々な種類の棗(ナツメ)を販売しています(棚上から2段目)。
↑ 地域によっては10歩歩けば生薬が売られているほどです。日本では知られていない生薬が所狭しと置かれています。
香港島の薬剤師事情
香港で薬剤師になるための方法
これまで、香港の薬局について簡単に触れてきましたが、香港や中国ではいったいどのように薬剤師になるのでしょうか。日本人もなることはできるのでしょうか。
香港の教育制度は、日本と全く同じ6334制で、そのうち義務教育期間は9年間。高等教育機関にあたる大学は4年間です。
香港大学や香港中文大学で薬学の学位を習得し、薬剤師の認定試験「PHARMACY AND POISONS BOARD OF HONG KONG」に合格する必要があります。
さらに薬剤師の登録前に1年間、登録後に少なくとも半年以上の現場での研修期間(病院もしくは薬局)が設けられています。
また、香港の方々は海外の大学へ進学することも非常に多いので、国外の大学で薬学を学び母国で薬剤師の職務を行う方も多いようです。
いいかえれば、外国人でも香港で薬剤師になるチャンスはあるということです。
もし、日本の薬剤師国家資格を持つみなさんが、香港で薬剤師として活躍するためには、上記の薬剤師の認定試験に合格する必要があります。
試験内容は「香港薬局法」「実践薬学」「薬理学」の3科目で、これらは広東語ではなくすべて英語で行われます。
しかし、現場ではもちろん広東語になるので、専門用語をネイティブレベルで話せる必要があります。
実際に日本人薬剤師が香港で働いている例もあるようですが、ワーキングVISA取得なども含め、薬剤師として働くにはかなり険しい道になりそうです。
もし、香港に恋い焦がれて現地で薬剤師として働きたい場合は、現地や外資系のエージェンシーに問い合わせてみると良いでしょう。
もしくは、ワーキングホリデーなどを利用して近くで香港の薬剤師の仕事を見てみるのも良いかもしれません。ちなみに香港はワーキングホリデー受け入れ国です。
香港の薬剤師の給料
日本と比較して米国の薬剤師の地位は高く、給料も高いことは有名ですが、香港の場合はどのくらいなのでしょうか。
政府の調査によると、公立病院の薬剤師の新卒での給料は39,350香港ドル。日本円でおよそ55万円となっています。(2018年のデータ)
薬剤師として経験を積むと、月収は47,235〜95,215香港ドル(日本円でおよそ66万〜133万円)にもなると言われています。
香港のビジネスマンの平均月収は13,000〜14,000香港ドル(日本円でおよそ18〜20万円)程度、大卒の平均初任給は8,000〜10,000香港ドル (日本円でおよそ12〜15万円)と言われているので、いかに香港において薬剤師の給料が高いかが伺えます。
広東語は厳しいがそれでも薬剤師として働くためには
結局、広東語が喋れないので薬局や病院で働けないけど、どうにか日本の国家資格で薬剤師として働けないものか。
以下の求人は2016年のものと少々古いものではありますが、お薬のオンラインweb サイトの薬剤師を募集しています。
少なくともビジネスレベルの英会話能力が必要になってくるようです。
一般的な求人サイトを見ていると、時々、日系企業や香港で日本への進出を検討している企業で日本の薬剤師の募集を見かけることがあります。
こういった求人は、日本の薬剤師求人サイトである「ファルマスタッフ」や「リクナビ薬剤師」などに掲載されることはもちろんありません。
時々、「薬キャリ 」に募集が掲載されることがありますが、基本的に一般企業向けの人材紹介サイト(JAC Recruitment や DODA )からエントリーすることになります。もし、海外で働くことに興味を持っているのであれば、一度調べてみても良いかもしれません。
まとめ
- 香港は「広東語」を使い、中国人ではない
- 香港で薬剤師はハイクラスの職業
- 香港では生薬は生活の一部となっている
- 香港で薬剤師になるには薬学の学位を取得後、認定試験に合格する必要がある
- 日本人薬剤師が香港で薬剤師として働くためにはハイレベルな広東語力が要求される
今回の記事では、香港の薬剤師がどのような仕事をしているのかあえて詳細に書きませんでした。
実際に、現地に赴き、薬剤師同士でそれぞれの文化や情報を交換してほしいためです。
特に多様な生薬の扱い方が、日本とは異なります。また、香港は中国と異なり、全ての薬剤師が英語を理解できるのでコミュニケーションしやすいと言えます。
グローバル化していく中で、他の国の薬剤師がそれぞれの国の法律に基づいてどのような業務に携わっているのか。
時々、日本の薬剤師として考えもしなかったことが海外では行われていたりもするので今後、海外へ行く機会などありましたら、観光だけではなく、その国の薬剤師にも注目してみるのも面白いかもしれません。