*当記事は、経営・採用に携わる薬剤師が執筆し、60代前半の薬剤師の監修で作成しています。
様々な事情により、60歳の定年後も薬剤師として現役で働きたい、働かなければならない人などが薬剤師の中にもいらっしゃいます。
ただし、60歳以上の再就職は一筋縄ではいかない。
この記事では60歳以上の高齢薬剤師が理解すべきこと、意識しなければならないことを述べ、もし転職、再就職、定年後の雇用延長を希望するにはどうすべきかをまとめました。
Contents
60歳以上の高齢薬剤師の転職・再就職は可能なのか
まず結論を申し上げますと、60歳以上の高齢の薬剤師の転職・再就職は可能です。
最近では、定年を65歳まで伸ばしている企業も多くなってきていますし、仮に定年が60歳だったとしても嘱託社員や契約社員として継続して働くも方も多いです。
ただし、一度退職した上で、別の薬局や企業へ『転職』『再就職』となると、ある程度覚悟して活動に挑まないと、少々痛い目を見るかもしれません。
転職サイト上では『60歳以上可能』という募集がある
転職サイトで検索していると、求人によっては以下のように『60歳以上可』となっている場合があります。
引用:ファルマスタッフ
大手紹介会社である株式会社メディカルリソースの運営する「ファルマスタッフ」では、55,801件の公開求人のうち、180件すなわち全体の約0.3%にあたる求人が『60歳以上可』となっています。(2019年5月29日時点)
こういった求人検索サイトに掲載されている求人の大部分はすでに募集が終了していると言われていますが、『60歳以上可』としている企業が求人全体の約0.3%存在するというのは間違いではないと見て良いでしょう。
ただし、これら求人は都心の募集も含まれますが、そのほとんどが地方の薬剤師過疎地での募集です。
60歳以上の転職・再就職は少し難しいが不可能ではない
60歳からの転職・再就職というのは、30代のそれと比較して何倍いや何十倍も難しいです。それはその求人数に比例するとも言えます。
どんなに秀才な人でも年齢を重ねるとに、運動機能、思考能力の低下により、仕事能力が落ちるのは当たり前なこと。
「いや、自分は大丈夫」
そういう風に思っている自信たっぷりな60代いわゆる高齢の人ほど、仕事能力の低下に気づいていないことが多く、若いスタッフに嫌がられることもあります。
経営者としては、若く動ける薬剤師に長く勤めて欲しいという希望があり、60歳以上の高齢の薬剤師を採用することで、若い世代が窮屈で働きにくくなるという事態はなんとしても避けたいものです。
私はこれまでに最高で68歳の薬剤師を(契約社員として)採用をしたことがあります。知人だと70代の薬剤師を採用したこともあるようなので、全国的にはさらにご高齢の薬剤師が活躍されていると思われます。
私が採用したその68歳の薬剤師の経験としては、病院薬剤師と調剤薬局の保険薬剤師を両方経験したことのある男性でした。参考までに、出身大学の偏差値は51〜55程度とそれほど高くはありませんでしたが、生涯現役であったので、知識は一般薬剤師と同等もしくはそれ以上だと思いました。
試用期間では、少し傲慢な態度が他のスタッフ(医療事務・薬剤師)の評判が悪かったのですが、やんわり指摘させていただきましたら改善してくれましたので、そのまま本採用したという経緯です。
このように、60歳以上でも転職・再就職は可能であり、多くの60歳以上の高齢薬剤師が活躍しています。
60歳以上の薬剤師再就職での覚悟・注意すべき姿勢
60歳以上の薬剤師再就職で覚悟すべきこと
はっきりと申し上げますと、60歳以上の高齢の薬剤師が再就職する場合、これまでと同様な雇用条件で働くことはできません。
たとえ再就職がうまくいったとしても、以下のような変化があることはある程度覚悟しておく必要があります。
- 年収が下がる
- 役職はなくなる
- 上司が年下になる
一般的には、勤労という世界から引退した身になりますので、「働くことができるだけでもありがたいこと」と思って仕事に臨みましょう。
ただ、新人であるという謙虚な気持ちを持つことも大切ですが、せっかく働くのですから、ぜひ楽しんでほしいと思います。
こういう60歳以上の高齢薬剤師は要注意
60歳以上ともなると、一通り人生というものを経験し、悟りを開いたような落ち着いた心の広い人であると思います。
しかし、なかには年齢的に自分は他の若い薬剤師より「経験」や「知識」があると思いこみ、上から目線であったり、傲慢な態度をみせる高齢薬剤師もいます。
「経験年数的に自分はできる」「他の会社では役員だった。若い奴らに色々教えてやろう」
そう思うようになると少し危ない。
とくに正社員時に、それなりの役職があった場合は要注意。
自然と身に付いた上から目線の言葉遣いによって、若い社員に一緒に働きづらいと思われるかもしれません。
どの世代の方にも共通して、マウンティングが嫌いな人は非常に多いです。
当然ながら、自身の年齢が60歳以上というのもあって、再就職先の上司は年下である場合がほとんどです。
これらをしっかりと心の中に記憶し、普段の勤務時やこれからの面接時に注意してほしいと思います。
60歳以上ならこんな薬剤師を採用したい
60歳以上でも採用されるには
逆に採用したくなるような60歳以上の薬剤師はどのような薬剤師でしょうか。
一般的には「いかに会社に貢献できるか」「会社に利益をもたらすか」というようなことを企業としては考えますが、薬剤師業界はいかに店舗スタッフに馴染んで仕事をしてくれるかを重視する。「スタッフに辞めて欲しくない」そんな単純な理由です。
「そんな守りの姿勢だから薬剤師はダメなんだ」
と一喝されるかもしれないが、現実はそんなところです。
- 協調生がある
- 人の悪口や陰口を言わない
- 謙虚な姿勢
- 意欲のある薬剤師(特にドラッグストア)
ただ、これらを履歴書や面接だけで判断するのは非常に難しいことです。ババを引いてしまうことなんてしょっちゅう。
もし面接する場所が、現場だった場合は、面接担当者は「一緒に働きたいか」「一緒に働けるか」ということを現場スタッフにほぼ間違いなく問いかけるでしょう。そこを逆に利用します。
- 挨拶
- 自己紹介(名前程度でいい)
- 自然な笑顔ができている
ごく当たり前のことですが、採用へと近づく戦略です。
間違っても、現場の若いスタッフに対してタメ口で馴れ馴れしく話すのはやめましょう。時々いるんです、親しみやすさを演出しているつもりかもしれませんが、全くの逆効果です。まだ他人ですので。
地域や企業・薬局によってはあまり気にしないかもしれませんが、ここ日本において「敬語」ほど無難な言葉はありません。特にドラッグストアでは社長や、部長など役職がある人も平社員に対して敬語を使うほどです。
面接時には、面接官以外のスタッフへの配慮も十分に注意してください。
調剤薬局ではパソコンができると一目置かれます(経験者の場合)
おそらく、今この記事を見ている人はある程度パソコンを扱うことができると思いますが、これからの時代パソコンで薬歴を記録するのは必須の時代に変わっていきます。
今紙媒体の薬歴を利用している薬局も、いずれは電子薬歴に移行するなどの対策をすることが予想されます。
私は多くの世代の薬剤師と接していますが、やはり高齢の薬剤師はこの電子薬歴の扱いが非常に弱い。
若い薬剤師が3人の患者の薬歴を書く間に、やっと1人分の患者の薬歴を書くようでは、経営者は人件費の無駄と考えてしまうかもしれません。
「薬剤師の存在意義は薬歴を書くことではないから」
そういう風に自分の考えを豪語しても構わないませんが、経営者としてはそのような人は必要としていません。
時々、音声を自動で薬歴入力するソフトウェアを採用する薬局もありますが、まだごく一部です。
もちろん高齢であるので身体的能力が低下するのは仕方ない。視力も低下しています。
そこでオススメしているのはブラインドタッチです。
ブラインド(キーボードを見ない)でタイピングするので、視力は関係ありません。
毎日練習すれば、早い人で1ヶ月、遅くとも半年でハイスピードなタイピングを手に入れることができると言われています。
タイピングの練習ソフトは無料でできる e-タイピング や 寿司打 が有名。駆け出しのプログラマーなどもこれで練習しています。
ホームポジションを意識して、最初はゆっくりでもいいから正しい指でタイピングできるように。
ブラインドタッチスキルを取得しつつ、同時に薬歴のコピーアンドペーストや辞書機能などラクして早く薬歴を仕上げる技術を習得してください。
若い薬剤師でもブラインドタッチができない人がほとんどなので、もし電子薬歴を扱ったことがなくても、面接で「ブラインドタッチはできます」と言えば、薬局側に一目置かれること間違いなしです。
高齢の薬剤師が転職・再就職先を見つけるストラテジー
調剤薬局で探すなら大手調剤グループより中小薬局
大手調剤薬局と比較して中小規模の調剤薬局は定年退職年齢に対する定義が曖昧なことがあります。
文面上、定年を60歳や65歳としている場合においても、技術や態度に問題なく働いていれば普通に再雇用する場合が結構多い。
また、そんな中小規模の調剤薬局では、高齢の経営者が運営していることも多く、同じ高齢の薬剤師に対しての配慮が素晴らしいです。
60歳以上で調剤未経験ならドラッグストアもいい
60歳で定年退職し、再就職先で特に人気を見せているのがドラッグストアです。
また、調剤未経験としましたが、調剤経験者でもドラッグストアは働きやすい環境です。
ドラッグストアで働く薬剤師に対して、なんとなく見下してしまう薬剤師も時々いるようですが、患者の症状に合わせて薬を選ぶことのできる粋な業種です。
風邪などの急性期症状に薬を選ぶだけでなく、コレステロールや血糖値が高い患者などに健康食品を選んだりと幅広く活躍することができます。したがって、患者との距離が近く、地元ファンもできやすい。
私の知り合いでも、元健康食品会社の代表取締役や、元有名大学准教授など比較的社会的地位の高かった人も引退してドラッグストア薬剤師になった方がいます。
元々の肩書きなど忘れて、薬剤師としてやり込める環境がドラッグストアにはあるのかもしれません。
大手の薬剤師紹介会社を利用するのも手段
これまで、示してきたように、60歳以上では再就職は少しだけ難しいです。
もし、定年後も継続して働きたい場合は、嘱託社員として今いる会社に引き続き勤務するのが好ましいですが、なんらかの理由により転職しなければならない、もしくは再就職しなければならない場合、薬剤師紹介会社のキャリアコンサルタントに相談してみると良いでしょう。
大手の薬剤師紹介会社では60歳位以上の高齢の薬剤師の転職実績は多くないもののそれなりにあります。
一度経験するとわかると思いますが、一つ一つ薬局や病院に応募して年齢を理由に書類で落とされるのは、ただ心が折れるというのもありますが、何より時間の無駄です。その理由から、ハローワーク転職もあまりオススメしていません。
薬剤師紹介会社のコンサルタントは皆さんのこれまでのキャリアをもとに、応募可能な企業をピックアップしてくれますので無駄な時間が省け、条件の交渉や希望によっては面接の同行もしてもらえます。
採用側としても、信頼できる紹介会社さんが推薦する薬剤師ということで、多少なり優遇します。(むしろイマイチな薬剤師を連れてきたら、紹介会社さんとの関係悪くなってしまいますよね。
調剤・ドラッグストアが未経験でも仕事はできる?
なかには調剤・ドラッグストア薬剤師の両方ともに未経験という人もいるかもしれません。
両方とも未経験である場合、転職・再就職はさらに難しくなります。
あまりにも難しすぎて、紹介会社のコンサルタントもさじを投げたくなるかもしれないですが、諦めないで就職先を探してくれたり、相談に乗ってくれるはずです。
地域によっては、調剤薬局は厳しいと思いますが、ドラッグストア(1人薬剤師)で雇用してくれる場合が高いので、検討してください。
また、以下のような医薬品の卸業者・物流センターの管理薬剤師の募集も時々あります。ただ、求人サイトに掲載されている求人は古いものが多く終了している場合がほとんどなので、興味のある方はコンサルタントに直接問い合わせてみると良いでしょう。
出典:薬キャリ
出典:ファルマスタッフ
未経験といっても、調剤薬局やドラッグストアでしか働いてこなかった人とは異なる経験があります。
これは私が個人的に思うことですが、そういった企業で戦ってきた人は、ずっと薬剤師しかしてこなかった人より、物腰が柔らかかったり、場の空気が読めたり、頭のキレがいいといった印象も強いです。
これまでの経験に自信と誇りを持って転職・再就職活動をしてほしいと思います。
働きやすい職場に就職するストラテジー
ここからは50代のシニア薬剤師の転職・再就職で注意することはこれだけ!の記事内でもご紹介した内容と大部分が同様です。
どのような薬剤師が働いているのか現場の情報がとても重要
経験者、未経験者にかかわらず、60歳以上の薬剤師の転職・就職活動では、若い世代よりも現場の情報が重要になってきます。
どの業界も同じかもしれませんが、とりわけ薬剤師は厄介者が多い。
昔に比べて今の若い世代は、妙に大人びた落ち着いた人が多い気がしますが、それでも現場に不慣れな年配の薬剤師に対して嫌がらせを働いたり、上司に大袈裟な表現で報告するような薬剤師や事務もいます。
そのような現場は苦痛でしかありません。
どのような業界においても、年の差という理由で、一定の距離を置こうとする心の幼い人がいるのは事実。
60歳以上の高齢での薬剤師転職では、少なくとも現場の雰囲気、働いている人の年齢層、どういう理由で現在人材を募集しているのかは確認した方がいい。
もし、悲惨な現場だった場合、新たに転職活動をしなければならなくなるかもしれません。60歳以上の2回目の再就職はさらに難しくなります。
現場の情報を得るために紹介会社のコンサルタントに依頼する
以上のような理由で、60歳以上の転職・再就職活動では現場の情報が非常に重要。そして、その現場の情報を得るためには紹介会社のコンサルタントを利用するのがいい。
紹介会社のコンサルタントの任務は、転職者の希望する条件にあった求人を提供すること、そして、円滑により良い条件で転職するのをサポートするのが仕事であり、転職希望者が気になっていることを解決するよう努めています。
転職希望者と企業側の双方に満足してもらわないと、それ相応のフィーを企業側から得ることができないので、そこは時間をかけても努力して調べてくれます。
言い換えれば、
現場の状況を知ることなしに、薬局や病院を勧めてくるようなコンサルタントは職務を全うしていないので、別のコンサルタントに変更するか、他の紹介会社を利用するといいでしょう。
また、60歳以上の高齢での転職・再就職ではパートや契約社員での雇用形態がメインであるので、紹介会社が薬局側から得るコンサルタントフィーは低くなります。つまり、紹介会社のコンサルタントによっては真剣に取り組んでくれない場合があるので注意が必要です。
大手の紹介会社だからといって安心せず、もしコンサルタントのレスポンスが悪い場合は別の紹介会社のコンサルタントに切り替えるのも一つの手段として心に留めておきましょう。
さいごに 〜60歳以上の薬剤師が再就職を成功させるために〜
これまで述べてきたように、60歳以上の転職・再就職活動は若い時に比べて非常に難しくなりますが、決してできないわけではありません。
60歳以上の高齢薬剤師の転職・再就職で最も重要なことは、何と言ってもその人の『人柄』(としっかりしていること。認知傾向はダメ)です。
会社の組織を運営するようなポジションにおける転職では、これまでのキャリアや実力は大きく関係しますが、現場の薬剤師として働くことに関しては、知識やキャリアなどはあまり重要視しません。
また、一緒に働く現場スタッフとの相性も長く働いていく上で、とても重要な要素。
肩身の狭い職場ではストレスが溜まるばかりで、健康寿命も短くなってしまいます。
せっかく働くのですから、若い世代と楽しく働く。
そのためにも、60歳以上という不利な立場であることをわきまえ、謙虚な姿勢で再就職活動を成功させてください。
*当記事は、経営・採用に携わる薬剤師が執筆し、60代前半の勤務薬剤師の監修で作成しています。また、頻繁に60代を『高齢』と表現していますが、検索エンジンのSEO対策として使用していますので、もし不快に思われましたらお詫び申し上げます。